JTC(大企業)で役員になるための「評判経済」理論 ── 絶対権力者の「いいね!」ですべてが決まる【全10回連載 vol.6】


部下に仕事は丸投げ。── こんな無能な人物が、なぜ役員になれるのか?

JTC(Japanese Traditional Company:日本型大企業)に身を置く誰もが、一度は抱く疑問です。

しかし、作家・橘玲氏が提唱する「評判経済」の視点で組織を分析すれば、そこには冷徹なまでのロジックが存在することがわかります。

JTCの出世ゲームにおいて、実務能力は必ずしも必須条件ではありません。

本記事では、40年間、JTCを内部から観測した筆者が、絶対権力者の「いいね!」ですべてが決まる──JTCで役員になるための「評判経済」理論 を解説します。

<筆者紹介>

東京大学建築学科卒業後、スーパーゼネコン、大手インフラ企業に勤務。
約40年にわたり、日本型大企業(JTC)という共同体の内部を観測する。

出世競争という制度的ゲームからは早期に身を引き、
組織の評価ではなく、個人の「実体」に投資する道を選ぶ。


Ⅰ. JTCの評判市場は、超・寡占市場である

通常の市場における評判は、不特定多数の顧客や取引先によって形成されます。

しかし、自閉的共同体であるJTC(日本型大企業)の評判市場は、極めて不健全な「寡占状態」にあります。

評価の決定権を握っているのは、市場でも同僚でもなく、組織の頂点に君臨する「絶対権力者」です。

──院政を敷く元社長、あるいは役員の人事権を掌握する会長。

彼らは、その組織における唯一無二の**絶対神**なのです。

彼らの「最後の審判」が、「アイツはいい」であれば、職場の不満や数字の低迷など、すべての悪評は一瞬で無効化されてしまいます。


Ⅱ. 出世とは「成果」ではなく「アルゴリズム適応」である

この環境下での「仕事」とは、顧客に価値を届けることではなく、権力者の脳内アルゴリズムに最適化されたコンテンツを投稿する行為に他なりません。

▢ 忖度という名の投稿
権力者が好む情報を集め、彼らが喜びそうな言葉で報告し、彼らが嫌う人間を一緒に叩く。これはSNSのアルゴリズムに媚びてバズを狙うインフルエンサーの動きと同じです。これは皮肉でも比喩でもなく、閉鎖的な評判市場における合理的行動なのです。

▢ 機嫌の解析
 成功する出世志向者は、ビジネスのロジックよりも「権力者が何を美しいと感じ、何を不快に思うか」というアルゴリズムの解析に全精力を注ぎます。


Ⅲ. なぜ無能でも役員になれるのか

外部から見れば「部下に仕事を丸投げしているように見える人物」であっても、権力者から「いいね!」を引き出す能力に特化していれば、その組織内での「評判資産」は最大化されます。

JTC(日本型大企業)における役員とは、高度な専門職ではなく、「権力者という唯一のフォロワーを熱狂させる組織内インフルエンサー」なのです。

彼らに求められるのは、職場を変える力ではなく、権力者の世界観を補強する鏡としての役割です。


Ⅳ. 比較:2つの評判経済

私たちが生きる世界には、全くルールの異なる2つの評判経済が並存しています。

スマホ閲覧時 表は左右にスクロールできます >>

項目 オープンな評判経済
(ヤフオク・EC等)
日本型大企業(JTCムラ)の
評判経済
評価する人 お客さんや取引相手(不特定多数) 会社の上層部(特定の権力者)
評判の役割 「ハズレ」を引かないための安心材料 「身内」としてふさわしいかのチェック
悪い人への影響 悪いことをすると低レビューがつき、商売不能になる(自然淘汰 上の人にさえ気に入られていれば、皆にどれだけ嫌われても安泰(悪徳者の生存
仕組みの結果 「正直で誠実な人」が選ばれる 「上の人の好みに合う人」が選ばれる
成功の秘訣 相手にメリットを提供し、信頼を積み上げる 上の人の「マイルール」を読み解き、期待に応え続ける

(注)上表の左の欄「オープンな評判経済(ヤフオク等)」は、橘玲 著『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』を参考にして作成

 ── 仕組みの違いが生む「残酷な結末」

この表からわかるのは、JTCでの出世ゲームは「仕事の質」を競うレースではなく、「上の人の好みに自分をどれだけ似せられるか」という適応テストになっている、という点です。

ヤフオクのような市場では、嘘をつくことは「損」になります。

しかし、閉鎖的なJTCでは、権力者が「白」と言えば、本当は「黒」でも「白」と言う(=権力者の世界観を壊さない)ことが、時に「高い忠誠心」として高く評価されてしまいます。

これが、外部から見れば「なぜあの人が?」と思うような人物が、出世の階段を何の抵抗もなく登っていくメカニズムの正体です。


Ⅴ.まとめ:君は「ムラの小作農」として一生を終えるのか

JTC(日本型大企業)の出世ゲームを「不公平だ」と嘆くのは、ゲームのルールを誤解しています。

それは、能力主義の皮を被った、高度な「忖度合戦」という別の競技なのです。

問題は、あなたがそのゲームに人生の貴重な時間を投じる価値があると思うかどうかです。

特定の権力者からの「いいね!」を奪い合い、リセットの効かない村のアーカイブに全てを預ける生き方は、あまりにハイリスクな投資と言わざるを得ません。

「ムラの小作農」として一生を終えるか、それとも会社の外でも通用する「個人の評判」を築くか。  

その選択こそが、定年後も見据えた人生戦略の分水嶺となります。


追記:インサイドストーリー(観測された実話をもとにしたフィクション)

――「最高権力者の承認(いいね!)」は、客観的な評価をいかに無力化するか

以下は、私が40年にわたりJTCの内部で観測してきた実例ですが、特異な人物の逸話ではありません。

むしろ、この構造の下では「珍しくない出来事」なのです。

本節で示したいのは、日本型大企業において 「誰が何をしたか」よりも「誰に承認されたか」が、 昇進・評価を左右する構造そのものです。

事例①:行動リスクが黙認されたケース

若手社員時代に、対外的に問題となるトラブルを起こし、 新聞のベタ記事として報道された人物がいた。

彼はその後も新聞沙汰にはならなかったものの、同じようなトラブルを起こし、本来なら経営職への登用は難しいはずだった。

しかし当時の最高権力者から強い信頼を得ていたため、最終的には役員に就任した。

この事例は、 コンプライアンス上のリスクよりも、個人的信任が優先された ケースである。

事例②:私生活リスクが軽視されたケース

社内でセクハラ問題がたびたび噂された人物がいた。

しかし、最高権力者の支持を背景に昇進を重ね、 役員に就任。

その後、ある不祥事によって 表舞台から姿を消すこととなった。

この事例は、最高権力者の信任を理由に、問題が起きるまで放置」という事後対応型の人事判断 の危うさを示すケースである。

事例③:忠誠心特化型人材が評価されたケース

業務能力よりも、日常的な付き添いや酒席での同席など、 最高権力者の側近としての役割に徹した人物がいた。

実務は部下に委ねる場面が多かったが、 長年にわたる私的・情緒的な信頼関係を背景に、 最終的に役員に登用された。

その後、その人物と親しく信頼関係を築いていた人が、大きな不祥事を起こし、全国ニュースで報じられてしまった。

この事例は、私的・情緒的な信頼関係」が、組織の防衛本能(チェック機能)をいかに完全に麻痺させるかを浮き彫りにしたケースである。

<小括>

これらの事例が示すのは、個人の資質の問題ではありません。

JTC(日本型大企業)においては、 制度的な評価よりも「誰の信任を得ているか」という非公式な「評判経済」が、 実質的に人事を左右するアルゴリズムとして機能しているのが現実です。

評判市場が超・寡占状態であるJTCで、このアルゴリズムが維持される限り、絶対権力者の「いいね!」獲得競争は、少しづつ形を変えながらも続いていくことでしょう。


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本記事は、JTCにおける「不条理な出世メカニズム」の構造を解き明かす全10回シリーズの一つです。他の視点を含めた総論は以下のまとめ記事をご覧ください。

▶ 【全10回連載まとめ】なぜ『出世は実力では決まらない』のか? ── JTCの「時代遅れのOS」が引き起こす構造的悲劇

※筆者について

本稿は、東京大学建築学科卒業後、スーパーゼネコンおよび大手インフラ企業にて約40年勤務した筆者の実体験と観測にもとづいている。

― 日本型大企業という共同体を内部から記録する ―

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